「紀伊、これ、颯人くん家持ってってきてー!」
1階からお母さんの大声が響いてくる。
「早くー!」
気づかないふりで通して見るけど、もう少ししたら部屋まで上がってくる勢いだったから仕方なく1階におりた。
「これ会社の友達にもらったさくらんぼ。たくさんあるから渡してきて」
「誠に頼めばいいのに」
「はい、よろしく」
玄関に向かって体を半回転させられ、肩をポンと叩かれた。
「もう、仕方ないなー」
靴箱を開けて自分のくつを探すも、見つからなかった。
「これでいいや」
手前にあった弟の誠のビーチサンダルをはいて、家を出た。
外は蒸し暑かった。
もうすぐ本格的に夏がやってくる。
そんな気がした。