白木藍という人が、二人もこの世にいるなんて、驚いた。
そんなこと、あるのか。
これは、帰ったら藍くんに話さないといけないな。
きっと、久しぶりに笑ってくれるだろう。
私は無理矢理笑顔をつくろうとした。
なのに、ちっとも口角があがらない。
どうして。
私は、その可能性を完全に否定できてなかった。
思い当たる節がまったくもってないわけじゃないからだ。いや、ある。確実にある。
藍くんが言った言葉のなかで、その可能性をはらんでるものなら、いくつかあった。
だけど、本当かは、まだ、分からない。
そうじゃない可能性だってある。
私は、自分から、聞けるのだろうか。
帰る頃は夕方に差し掛かっていた。
なんだか、気が重かった。
それでも、私の帰る場所は、ここだ。
自分を奮い立たせて、部屋の鍵を開けた。
電気のついてない、暗い部屋。
いつも通りの風景。
開いたままの、彼のへや。
中を覗いたら、彼はいつものように突っ伏したまま眠りこけてた。
こんなだらだらと寝てる人が、いつ死ぬか分からないなんて、そんなことあると思う?
嘘だよ。そんなの。
別人に決まっている。
「藍くん」
その呼び掛けに、藍くんは、ピクリとも反応しなかった。
それは、普通のことのはずなのに。なぜか、私は、無性に怖くなってしまった。
だから、もう一度彼の名前を呼んだ。
「藍くん」
少し、怒ったような、怒鳴るような、そんな声が出た。
なのに、藍くんは、やっぱりピクリとも動かない。
いよいよ怖くなった。
それはたぶん、藍くんが深い眠りについていて、軽く呼び掛けたくらいじゃ起きないだけなのかもしれないのに、
私は、バカみたいに不安に駆られて、藍くんのベッドの上に上ると藍くんの肩を揺すった。
「藍くん、藍くん、ねえ、藍くん、起きて、……藍くん。藍くん、藍くん、………藍くん!!!!!!!」
ヒステリックを起こしかけた。
これだけ叫んでも藍くんが起きなかったら、私はおかしくなってたかもしれない。
だけど、最後の呼び掛けで、藍くんはうっすら目を開けたから、私は思わず涙ぐんだ。
「………ん?」
「……うっ……うっ、」
藍くんにしがみつくように抱きついた。
大きな藍くんの体は、なんだか、か弱く感じた。