「なに、その顔」
「いや、はは。ほんと?」
「何が」
「……うーん、同姓同名ということも」
「何がよ」
「その人は…えーと、髪明るい茶髪で、ピアスしてたり、する?」
「え……と、まあ、してる、けど」
「はは、」
だから、何笑ってんのよ。
笑いきれてない。口の端がちゃんと上がってないもの。
「藍くんを知ってるの?」
「ああ、うん、たぶん。桐も、大変だな…辛いだろ」
「だから、はっきり言いなさいって。なんでそんな顔するのよ」
「…私を、助けた人、その人だから」
「へ……?あ、そ、そうなの?」
山花が一度頷いた。
私はそのとき、少し驚いた。だけど、それだけだった。
彼が、人助けをしたことにも驚いたし、彼女を変えたのが藍くんだったなんて、知らなかったもの。
「桐……やっぱり、強いな。桐は」
「何よいきなり。別に、強くなんて」
「いつ死ぬかも分からない人と、暮らしてるなんて、強い以外に何もないだろ」
さて。
私は、次の瞬間声が出なくなった。
何か、たぶん、言おうとしてた気がする。
そんなことない、とか。そういうことを。
でも、私の口からは何も出てこなかった。
呼吸すら、出てこなかった。
山花の目の色が少し変わった。何か、しでかしたような、今にも、あっと言い出しそうな顔だ。
私はその間に、なんとか平常を取り戻した。
小さな微笑を交えて、小バカにするように、次の言葉を吐いた。
「山花、それ、たぶん別人ね」
「……え?」
「藍くん病気なんてしてないもの」
「あ…えっと、そうなのか?」
「そうよ。びっくりしたじゃない。それにしても同姓同名なんて、本当にいるのね」
「…そ、そうか…な?」
山花も少し笑った。
完全には笑っていなかったけれど。
私はそれ以上山花の顔を見るのはやめて、会計に向かった。
山花も急いでついてきた。
そのあと、私たちはバラバラに帰った。