「桐よ話聞かせろよ~!私話したんだから!」


「山花の話は恋ばなとは言わないと思うわ」


「いいから、いいから!名前とか、性格とか!」



あんまりしつこく聞かれるので私はため息をついて、軽く話すことにした。

表面上適当に彼のことを話しておけば落ち着くだろうと、そう思った。




「性格悪いクズみたいな男よ」


「はは、まじで。そりゃ桐も暗くなるわな」


「……いっつも、私より先に学校を出ているはずなのに、帰りが遅い」


「ほおー、変だな」


「けど、絶対帰って来て、ご飯食べてくれる」


「桐のご飯うまそう」


「それから、…いっつも、寝てる」


「はは」




山花は楽しそうに私の話を聞いてくれた。
気がつくと私は色んなことを喋っていた。

藍くんが私を好きだと言ってくれたこと、だけど、彼女を作ったり、別れたり、

とにかくむちゃくちゃだ、と。


山花はめっちゃ笑ってた。


笑い事じゃない。




「ひーー、めちゃくちゃだ…すごい彼氏だ…」


「すごくない、変なの。クズで、バカで、ほんと、何考えてるのか何にも教えてくれないから、私、どうしたらいいのか」


「聞いてる限りヒモにしか聞こえない」


「うっ…けど、私働いてるわけじゃないから」


「それもそうか」



また、笑った。

こんな悩んでるのに。


けど、なんだか、私もバカらしくなってきた。

もしかしたら、理由なんてないのかもしれない。私をからかってるだけなのかもしれない。

私をもてあそんで、何か隠してるように見せかけて、実は陰で笑ってるのかもしれない。



……そんなこと、あると思う?



彼のあの見たことのない顔を、嘘だと決めつけるの?






「ねえ、その人、名前なんてーの?」


「…言っても知らないじゃない」


「いいからいいから!ほら、顔とか想像できるかも」


「出来るわけないじゃない」


「はは、いいじゃん、減るもんじゃない」




それもそうだ。


別に、山花に隠す必要はない。

彼女は彼のことをしらないのだから。



私は彼の名前を言った。



「白木藍。綺麗な名前でしょ。名前通り綺麗な人よ。性格は最悪だけど」



その時山花が見せた表情の意味を、私はまったく理解できなかった。

なぜ、そんな困った顔をしているのか。

私には、ちっとも、分からなかった。