これまで、藍くんに関してたくさんの難問に出会った。


学校で教えてもらえるものならば、特に思い悩むことはない。
聞いて、私が理解すれば、それで終わるもの。


だけど、藍くんは、何も教えてくれない。

答えをくれない。

いつも私を悩ませるだけ悩まして、あとは放っておく。


私には絶対に教えないと言う。


なぜ?


藍くんが悩んでるなら、話してくれればいい。

どんなふざけた悩みでも、秘密にされて、時折瞳を揺らされるより、ずっと、ずっといい。

何が藍くんをそうさせるの。

何が藍くんを苦しめるの。



私は、何もできないの。



もう、最後の一ヶ月はすぐそこだ。

それが終われば、私は家に帰る。

そして、彼とは、どうなるのかしら。


予定してないことばかりが起きたから、赤の他人とはいかないと思う。

それでも、

彼は学校ではほぼ私に声をかけたりしないため、私がここを出たなら、赤の他人同然になるのかもしれない。


私が彼にわざわざ声をかけることもないだろうし。


変だな。




私、こんなに誰かを心配したりするような人間だったかしら。

ずっと、自分が中心で世界が回ってる気がしていたもの。
そこに、藍くんさえ居てくれたなら、私はきっとこの世で一番の幸せ者になれるのだと信じてうたがわなかった。



久しぶりに再会したときは、全然気づいてくれてなかったな。


私は、一目でそう思ったのに。


保健室でもあの衝撃的な現場。忘れたくても忘れられない。
藍くんは、本当に、バカでチンピラでクズみたいな人間だった。

それは、今だって……そうだ。


しばらくして、その藍くんを受け入れようとして、今に至るけれど。

私、藍くんのこと、ちゃんと好きかしら。



うん、好きよ。

彼の顔。



私のご飯を、何があっても毎日帰って来て食べてくれるところ。

寝顔。

それから、

抱き締められた感触も、悪くなかった。



触れられるのは苦手だ。



でも、藍くんなら、

どんなに汚れた手だとしても、
いつでも、掴みたいと思った。


思ったはずなのに。



私は、彼に手を差し伸べることが出来ない。



彼は、決して私の手を掴んで全てを吐き出してはくれない。