「やめっ、やめろって、もうっ、」


「今日だけだから、明日から、触んないから、お願い……」


そんな、弱々しく言われたらイエスって答えそうになるじゃない。

どうして、そんな弱いの。

さっき出ていって、何があったのよ。


何にも、教えてくれないくせに。

何を怖がって、私に何を求めてるのよ。



「ひゃっ、わ、わ、」


服の裾からもぞもぞと、藍くんの大きな手が滑り込むと、くすぐったくなるような手つきで私に触れ始めた。

もう、ほとんど涙目になって、くすぐったいし、恥ずかしいし、変な感じするし、私は藍くんの手を掴んでそれ以上上に手が来ないよう必死で阻止した。



「触りたい、桐ちゃん…ちょっとだから…」

「やだ、やだやだ、いや、やだー…」

「お願い…、ごめん……ごめん、」



何なの何なの、

ごめんてなに。


何でそんな触りたがりなの。私じゃなくていいじゃない、マネキンでも触ってれば。

だめ、ほんと。


ぞくぞくして、ぞわぞわして、息が、変になってきてるし。



「大好き、桐ちゃん、……桐ちゃんも、俺のこと、好きって言って……」


「うっ…うう……、す、好き…です…藍くん…」


「はあ……、桐ちゃん…、ラブ……」


「なに、何いってんのよ、ばか、ばか、もう、十分でしょっ、もう、触んないで、ひゃっ」


「うう…うーーー……」



なんで、泣いてんの!?

嘘でしょ。

藍くん、泣いてんの?嘘泣き?
嘘泣きだよね。藍くんが泣くわけないじゃない。


なのに、なんで私の肩濡れてんの。


なんで。


なんでよ~…



泣きたいのは、こっちよ…




「教えてよ……藍くん…」


「無理…絶対無理……、無理だから…」


「藍くんの、ばか、……んっ、」



まただ。

目の前が、真っ暗になる。


藍くんの手が、私の目を塞いで、唇には、あのときと同じ感触。

でも、あのときと違うのは、
あのときよりもずっと、激しくて、長い、長い、キスだったということ。


ベッドに押し倒されたあとも、ずっと、キスをした。

もう、どうにでもなれと、諦め始めた。



そうして、突然、藍くんはキスを止めると、ぱたりと隣で倒れるようにうつ伏せになった。

また、眠くなったのかな。


長かった。



長すぎて、くらくらして、酸欠になりそうだった。


私は、しばらく息を整えるように天井を見つめていた。

そして、すぐ隣から、聞き慣れた寝息が聞こえてきて、私は深くため息をついた。



藍くんのばか。



結局、何にも教えてくれないなんて。