「桐に話したら、殺すよ」
「あ……ぁ…は、はい……」
先輩は、ふっと、息を吐くと落ち着きを取り戻すように目をつむり、大きく息を吸い込んだ。
今の口ぶりからして、桐先輩は、藍先輩のこと、知らないってことなのかな。
それって、本当に藍先輩をこれからもずっと好きでいるっていう保証ないんじゃないのかな。
ああ、そっか。
藍先輩は、たくさん理由つけてるけれど。
ただ、普通に桐先輩が好きなんだよ。
好きだから、もし、藍先輩のことを知ったら、桐先輩の気持ちを揺らぐと思っているから、怖くて言えないんだ。
そんなことにも、自分で気づかないなんて、藍先輩も鈍感というか、ばか、ですよ。
藍先輩だって、桐先輩だって、普通だよ。
ただ、不器用なだけなんだよ。
これは、最後の意地だから、絶対に教えてあげませんけど。
「桐先輩には、話さないし、これからも関わらないと思います。
だけど、何も知らない桐先輩が、すごく、かわいそうです」
何も答えない先輩に一礼だけして、私は公園から出た。
来たときよりも、早く、私は家に向かっていた。
私、少しも、藍先輩の目の先には居られなかった。
最初から、最後まで。
藍先輩と桐先輩は、お互いのことしか見ていない。
私に入れる隙なんてちっともなかった。
でも、この恋は本物だった。
この瞬間の先輩への気持ちは嘘じゃないです。
私は、誰にも藍先輩から聞かされたことを言わない。
二人を見守ったりもしない。
私は、新しい人を好きになる。