「悲しませる人って…誰ですか」
「ひみつ」
「じゃあっ、なんで私と付き合うなんて言ったんですか!」
「付き合ってって、言われたから」
「そう言われたらっ、誰とでもつき合うんですか!?」
「付き合ったのは君が初めてだけど」
そういえば、私、先輩に名前すら呼ばれたことない…
もしかして…
「先輩…私の名前、知ってますか…?」
「…………」
「………うっ、もう、いいです……けどっ、納得できませんっ。
もう一度、チャンスをください。私、頑張りますから、先輩が悩んでることとか、辛いこととか、皆、受け止めますから。
ほんとに、好きなんです。幸せにしたいんです。だから、お願いですから、そんな簡単に別れるなんて…」
藍先輩と付き合うために、人生で一番勇気を振り絞った。今までで一番、大胆なことをした。
それをあっさり、全て終わりにしたくない。
もう少し、私は頑張り続けたい。
「俺が明日死んでもそれ言えんの」
「…………え?」
「俺が明日死んだら、君はそれでも俺を好きで居続けるの?
永遠に、君が二十歳過ぎて、三十代目前に迫って周りのお友達は皆結婚していくのに、君は誰も好きにならずに、たった一人で、年を重ねて、たった一人で死ぬまで生きていける?」
「何言ってるんですか。藍先輩は死にませんよ」
「だから、死ぬんだって。明日じゃなくても。」
「え?」
「それが、君の気持ちだろ」
待って。待って、くださいよ。
だって、それ以外に答えようがないじゃないですか。
だって、藍先輩は死なないし、これからも生き続けるのに、今すぐにでも死ぬって言われても、何が何やらですし。
「君は、俺が死んだら、すごく悲しんだあとに、誰かを好きになって結婚して家族を持つ。
そういう人は、タイプじゃない」
「な、なんですかそれ」
「最初に言っただろ。俺の好きな人は、俺しか好きになれない人だって」
「私は、藍先輩しか、」
「今だけだろ。そのあっさい言葉。
だから、一緒だよ。君も、その他大勢の女子も、皆そうだから。
ただ、俺が、ほしいのはそういう人じゃない。この先、ずっと、俺しかいない人。
俺しか愛せないかわいそうな人がいい」