私は、確かに変だし、異常だけど、
人並みの良心はきちんと備え付けてると思っている。

私が藍くんの邪魔物なら、

私が藍くんの家にいる意味はないもの。



「……なに?大掃除にしたらちょいやりすぎじゃねーの」



藍くんの彼女をリンチから回避させたその日、私は夕飯のメニューなんか考えず、直帰し、藍くんの家にある私物を全て出してきてキャリーバッグや段ボール箱に入れていた。



「帰るの。これ片付けて、私の家に」


「頭の日付進むの早すぎね?まだ一ヶ月とちょっとだろ」


「緊急事態が起こったからよ」


「なに、緊急事態って」


「藍くんが、彼女を好きだからよ」



てきぱきと荷物を段ボールに詰めていく手を、藍くんが止めるように握った。

私は、その手を叩いた。



「いった、」


「汚い手で触んないで、ばか、ばーか」



ふん。

何よ何よ。

好き好き言っといて。彼女作って。私の立場ってなんなの。家政婦?シェフ?

バカか。


違う。




あの子の純粋さが、痛かったんだ。

ものすごくものすごく、痛かった。


彼女を思うと、自分の落ち度はよく分かった。


私は、あの子を考えながらここに住むことが辛い。
それに、藍くんがあの子のこと本当に好きなのではと更に考え始めたら、居ても立っても居られなくなった。


藍くんは最低のクズだけど。

好きだけど。

これからもここに居たいけど。



また頭の中ぐちゃぐちゃになって、わけわかんなくなってる。



「わっ、」


肩を引かれた。

後ろに倒れると、藍くんの体に背中が収まった。
真上に、藍くんの顔があったと思う。

それが、いきなり、真っ暗になった。


唇に、何かがあたった気がした。


それが何か、分かる前に視界が戻った。
藍くんの顔がまた見えた。

藍くんの黒目が、揺れていた。


初めて見る、顔だった。



いつの間にか、私は藍くんに背後から腕を脇の下からまわされていたらしい。

藍くんはぎゅっと腕を強く締め、私の肩に額をあてた。



「桐ちゃんしか、居ないって言った」

「嘘だよ、あの子でもいいんだよ。藍くんは」

「嘘じゃない」


なんでそんな風に言うの。

私を混乱させるのはいつも藍くんだ。
私に引き留めるほどの価値があるか?私はあの子みたいに優しくない、純粋じゃない、可愛げなんてものもない。


ただ、人より頭がよくて、要領よくて、料理が好きで、掃除が好きで、藍くんが好きな、それだけの人間だ。


人として、取るとするなら、あの子だろう。