「はい…あまり、彼女って感じではないんですけど…」
「そうね…」
おっと。
口が滑った。
「先輩、失礼ですよ」
ほら、ほらほら。すぐ怒るんだもーん。
この子怖い。
私は、変なことを言わないように口をつぐんだ。
「百合、失礼じゃないよ。ほんとだもん。
付き合ってるだけで、ほんとに、それだけだから…」
「そんなことないよ!菫!藍先輩が女の子と付き合うなんて初めてのことだよ!
しかも、すぐに手を出さないってことは、大事にされてるんだって!」
「そ、そうよー、きっと…」
いかん、棒読みに…
「だと…いいなぁ…」
本当に、この子は、本物のいい子なのだろう。
ある意味恋敵の私から見ても、汚れなき心を持っている。
純粋で、可愛らしくて、
私とは、真逆の、女の子。
「1つ、心に留めておいて欲しいんだけど」
これは、私の気まぐれ。
私と真逆だからこそ、先輩からリンチなんてされたら、きっとそのままじゃいられなくなるでしょうから。
別に、菫がどうなろうが
知ったことではないんだけど。
「藍くんにはファンがたくさんいる。あなたをいつリンチしようかと企んでる。
さっきも、あなたが一人で玄関まで行こうとしてたなら、あなたはリンチされるはずだった」
「え」
「だから、一人で行動しない方がいい。友達と、常に一緒にね」
「わ、私がいるので、平気です」
「そうね、それが、一番だと思う」
言葉から、警戒心が解かれた気がした。
「じゃあ、これで」
「あ、はい!ありがとうございました!」
藍くんと噂になっていた私に、こんなに気持ちのいい挨拶をする人が居ると思う?
居ないわよ。
なによ、この子。
めっちゃいい子。
もしかしたら、藍くんは本当に、彼女の純粋さにひかれたのかもしれない。
ひかれる要素なら、多くあった。
もし、そうなら、
邪魔物は、藍くんを好きな人でも、藍くんのとりまきでもない、
私じゃない。
私、自分で少し良いことした気になってたけど、
藍くんと同じ。
あの子に藍くんと一緒に住んでるだなんて、
一言も言わなかったもの。