それからしばらく藍くんの彼女を観察していた。
菫と呼ばれているその子は、見たまま穏やかで優しく、健気で純粋な子だった。
少し天然で、よく、友達なんかにからかわれて。
藍くんとは、帰りに一緒に帰るくらいらしい。
けれど、それは、藍くんが学校を出てくるのを見計らってついていっているという印象だった。
要するに、藍くんは帰るときに彼女を探したり、そういうことは一切していない。
恐らく、彼女が来なければそのまま一直線に校門を出ていくだろう。
それなのに、彼女はちっとも気にしていない。
一緒にいるのが嬉しくてたまらないといった様子だ。
藍くんも、それなりに話してはいるみたいで。
なんだか、本当に付き合ってるみたいだ。
いや、付き合ってるんだろうけど。
で、まあ、瞬く間に二人の情報は広まっていったわけで。
藍くんのとりまきが黙っているはずもなく、また、何かしだす予感がした。
なんとなく、本当になんとなく、とりまき達の動向を見ていると、その日の放課後、彼女を待ち伏せするらしかった。
そして、放課後、
とりまき達はすぐ教室を出ていくと、彼女のいる教室を出たところで待機し始めた。
本当に、この人たちは飽きないな。
あの子も、リンチに合うのかしら。
気にしたって、無駄よね。
本当に、私は、どうかしてる。
私は彼女の教室に入っていった。
もちろん、クラスメイトではない、しかも先輩がいきなり教室に入ってくれば少なからず視線が来るわけだけれど。
私は、まっすぐ彼女の席へと歩いていった。
彼女の隣には、前に私のところに来たときに一緒にいた子がいた。
そして、あの日と変わらぬ威嚇するような目で私を睨み付けていた。
「先輩、菫に何か用ですか?」
「少し、話いい?」
「ど、どんな話…ですか?」
菫って子も、なかなか強い目で私を見据えている。
だけど、完全には拒否してこない。
そんなんじゃだめよ。
そんな無防備で弱かったら、すぐに、ダメになる。
「大したことじゃないわ。玄関まで行くときに、ついでに話すから」
「あ、はい、そうなんですか」
「私も菫と居ますからね!」
「どうぞ、大したことじゃないから」
そうして、3人で教室を出た。
とりまきたちが少し、睨みを効かしたのが、伝わった。
「あれ?こっちから行かないんですか?」
「こっちからでも距離は同じよ」
とりまきの前を通らないように配慮した結果だ。
私は、出来るだけとりまき達に意図的であると気づかれないように、1度も振り返ったりしなかった。
菫はちらちらこちらの様子を伺っている。
話といったけれど、
その隣の子がお喋りになりそうな話題しか思い付かない。
「それで、話って?」
「えっと、そうね、藍くんとは仲良くやっているようで何より…ね?」
これで、いいかな。
私、何も怒らせるようなこと言ってないわよね?
なのにどうしてそんな怖い目で見てくるのよ。
あなたは藍くんの彼女じゃないでしょうが。
藍くんの彼女の友達でしょうが。