メールをすると、山花はすぐに家の近くまでやってきた。

私は、部屋を出て、山花を迎えに行った。


「あ、桐、一週間くらいぶりー」

「そうね。頑張ってるみたいで何より。
なので、頑張ってる山花にはもっと勉強できるようにしてあげる」


「え?なになに、なんかすげー!」



山花の髪は、いつのまにやら金から黒に変わっていた。
あの日は洋ランを着ていたのに、今はしっかり制服を身にまとっている。


話し方はバカだけど。



「こっち」

「桐ここ住んでんの?」

「まあ、そんなとこ。あと、これからは私じゃなくて違う人に見てもらうことになると思うから」

「え?それ、どういうことだよ」

「とにかくきて」



まず、この案を実現するには月島さんの了承がいる。

もしかしたら、というか、普通に断られる可能性だって十分にある。

まったく知らない人に勉強を教えてくれるほど優しいとも思えない。

だけど、こうするしかない。



「山花、ちょっと待ってて」

「はーい」


月島さんの部屋のインターホンを鳴らす。

すると、すぐに返事が来た。



「矢野です」

「はーい、と、」


ガチャッと開いたドアから月島さんが顔を出した。
相変わらず前髪は目にかかって見えないし、スウェットだし、だらしない。

何度見ても医大生とは思えない。



「お前だけじゃないの」


私の後ろで待機してる山花を見ながら月島さんはそう言った。



「少しお話いいですか」

「いいけど、」

「山花、ここで待ってて」

「え?あ、はいー」


何にも知らない山花は頭を傾げたままドアの前で待機。私は、玄関に入っていった。



「で、なに?」


「藍くんに月島さんの部屋に行くなと言われました」


「……ふーん」


「けれど、私は月島さんに恩がありますし、女嫌い克服については手伝いたい気持ちがあるのですが、出来ません。

なので、代わりといってはあれなんですけど、今玄関にいる彼女、医学科志望なんです。バカだけど、純粋で、真面目です。

そして、彼女は月島さんの苦手とするタイプに近いはず。

だから、彼女に空いた時間、勉強を教えるという形で交流することで、彼女にとっても月島さんにとっても有益な時間を過ごせると思うのです」



一通り説明し終わると、月島さんは少し間をおいた。
そして、玄関のドアのぶに手をかけた。



「そこの人、入っていいよ」

「あ、あざーす!!」


山花はにこにこ顔で玄関に入ってきた。
私は、月島さんを見上げた。



「利害の一致ってわけね。まあ、いいよ。そっちはそっちで色々あるだろうし。

あんたより手軽だしな」