気がついたら藍くんが寝ていた。
いつものことだけど。
こんなに寝て、学校でも彼はよく寝てる。
私は、そんな彼を起こしたりしない。
起きるまでそのままにしておく。
夕飯を作り終えたらいつも起きてくるからだ。
まあ、まだ夕飯を作る時間には早いわけで、布団は干したし掃除もほとんどする場所がなくなった。
こんなとき、私は学校の勉強をするけれど、
その前に携帯が震えた。
山花こと、山茶花からだ。
彼女とは、あれ以来たまに勉強を見ている。
山花は、まず、中学一年生から始めなくてはならなかった。
だから、私は彼女に参考書を紹介し、とにかくそれを全て出来るようになるよう言った。
週に一度、分からなかったところを待ち合わせをして、軽く教える。
山花はあまり私を頼らなかった。
けれど、毎回見るたびに汚れていく参考書を見るだけで、彼女の努力はしっかり伝わってきた。
そんな山花からのメールには、今日会えるかという内容が書かれていた。
私は、大丈夫だと送ろうとしたとき、
もう一通のメールがきた。
また山花だろうかとメールを見てみる。
しかし、予想は外れた。
「…月島さん?」
メールを開く。
私は、やっと、思い出した。
月島さんとは、ある約束をしていた。
それは、彼のことを教えてもらうことと引き換えに、月島さんの女嫌いを克服するというものだった。
あれから、ごたごたと、自分のことで手一杯で頭が回っていなかった。
メールの内容は、そろそろ女嫌い克服に付き合ってくれというものだった。
私は、頭を抱えた。
月島さんには、少なからず恩がある。
私は、その恩を返さなくてはならない。
しかし、私は、藍くんに月島さんの家には行くなと言われた。
もちろん、私が、そこで行くも行かないも、自由だけど、私は行きたくなかった。
藍くんが、私に、お願いしたこと。
私は藍くんを裏切らない。絶対に。
けど、だとしたら、私はどうしたらいいんだろう。
恩は、返さなくてはならない。
そこで思い浮かんだ妙案は、あまりに勝手なものだったけれど、今この時点において、最もよい案だったと思う。
山花は、医学科志望で、もとレディース。
きっと、月島さんの苦手なイケイケキャラだったはず。
そして、月島さんは、現役医大生。
そこから導かれる答は1つ。
山花を月島さんにたくすことで、
お互いに、利益ある交流ができる。
「よし、山花を呼ぼう」