保健室に着くと、私は周りを確認してからドアを開けた。
ほのかな薬品の臭いが鼻腔をつく。

静かにドアを閉め中に入る。


先生用の机の上は、資料でいっぱいだ。
先生も始業式に出ているらしく保健室には誰もいない。

少しベッドを貸してもらおう。


鞄を肩から下ろし、カーテンを開いた。
シャッ、とカーテンが音を出して開かれる。

開けっぱなしの窓からふわっと風が入り、カーテンを翻した。


私は、目を見張った。


ほのかな寝息の音が耳に届いた。
枕に半分埋もれた顔は、恐ろしいまでに美しく、艶っぽい。

閉じたまぶたから生えるまつげの長いこと。

通った鼻筋に、
血色の良い唇。


何年たっても、間違えるはずがない。


こんな美しい人を、見間違えるはずがない。




「藍……くん………?」


無意識にそう呟くと、まぶたが徐々に開かれた。
そこからのぞく、藍色の目がこちらに向けられた。

私は、息を飲んで、もう一度その名を呼んだ。



「藍くん、藍くんだよね。藍くん、藍くん藍くん、私よ、分かるでしょ。私……やっと、やっと、会えた……」


感動の再会。

あれから長い月日が経った。
貴方は小学生の頃と変わらず、いや、それ以上に美しくなっていた…

なぜ、一年間ここに通っていたというのに気づかなかったのかしら。

そうか、私が周りへの関心が0に等しかったからだ。

周りの会話や行動から全てをシャットアウトしながら生きてきたからだ。

バカな私。

貴方はずっと近くにいたのに、気づかなかったなんて。


「藍くん…‼会いたかった……」


感動の再会に、
涙が出そうになった…

「誰だ、お前」

彼の口から出たその言葉すら、耳に入らぬほどに。


「私……ずっとずっと、待ってた。藍くんが迎えに来てくれるの…けど、どうして言ってくれなかったの?

同じ学校にいるのに、一年も無駄にしちゃった…」


「だから、誰だって。お前」


「え?やだな、私だよ。桐だよ。昔、一緒によく遊んだでしょ?
藍くん、大きくなったら、私のものになってくれるって言ったんだよ?」



そこまで言って、彼は柔らかく微笑んだ。
本当に、変わらない。

笑顔もあり得ないくらい綺麗だわ…


けれど、柔らかな笑みから吐かれた言葉は、
その笑顔にまったく似合わない台詞だった。

彼は私の腕を掴むと、強く引っ張った。
目の前に、藍くんの顔がある。

なんて、美しいの。




「何それ…新種の口説き文句?すげー笑える」