器に美しく盛られた冷凍食品の数々を一目してから、藍くんは眉を寄せた。
「これは、どういう?」
「どういうって」
「今日は1日家に居たはずなのに、どうしてすべての食べ物が冷凍食品かという疑問だけど?」
「それは、冷凍食品を、食べようと思ったからだわ」
「嘘つけ。冷凍食品なんて、お前が食いたくて食うわけないだろ」
確かに、そうかもしれないけど、嘘だと断定するあたり藍くんの勘が鋭いというところか。
もしくは、私が、分かりやすいか。
だいたい、大好きだと言われた相手が目の前にいて、うまい言い訳も見つからないくらい動揺してるのだから、
仕方ないじゃない。
すると藍くんは、椅子から立ち上がると私の背後にまわり、隅々までじろじろと眺め始めた。
「な、な、なによ、見ないでよ」
「いや、なんか、また嫌がらせとかされて買えなかったとか…あ、何でもない」
全て話したあとに何でもないと言われても。
なるほど。もう、知られていたのか。
この髪の理由も、あの日帰りが遅かった理由も。
月島さんに口止めするべきだったわ。
「別に、嫌がらせはどうってことないし、そういうことじゃないし、」
「じゃあ、どういうこと」
「考えすぎて夕飯のメニューが考えられなかった、ただそれだけ」
「それって、俺のこと?」
藍くんがしゃがみこんでじっとこちらを見てくる。
ああ、もう。
違う、違う。
こんなことで胸が高鳴るなんて、間違ってる。
「そ、そうだけど」
「俺のことずっと考えてたんだ」
「そうね、それは認めるけれど、別に私はあなたとどうこうしたいとか、そういうのはないから、
ただ、私が一方的に好きだというだけで、終わりよ。
あなたが私を大好きという気持ちが本当かどうか疑わしいし、もし本当にそうだとしたらという考え方をしたらまったく収集がつかなくなったと、
ただ、それだけなの、」
そう、それだけ、それだけよ。
私は藍くんに何も望んでいなかった。
好いてほしいとも、振り向いてほしいとも。
私が勝手に好きで、それ以外は、いい。
そうでしょう。
そのはずでしょう。
そういうお約束でしょうが。