「ん?なに?」


この人になら、言ってもいいと思った。

聞いてほしかった。

ずっと、悩んでいたこと、わからなかったこと、
誰かに、聞いてほしかった。


ずっと。






「私、同居してる、男の人がいるの」


「へー、大人だ」


「そう言うんじゃないの。好きじゃない人と3ヶ月同居することになっただけ。

成り行きで。

その人は、昔、私の好きな人だった。小さい頃結婚の約束もしたんだけど、私バカだから、今まで信じちゃって、

最近、その人と再会して、その話は無かったことになってて、それに、私が好きだったあの頃の面影は全然なくて、


だから、3ヶ月同居してもらうことになったの。昔みたいな接し方で、私の言うことも聞くって、それで罪滅ぼしをして、お互いもう忘れるって決めたの。


だけど、私、今の彼をちゃんと見てなかったことをなんだかすごく後悔して、だから、もう昔みたいな接し方はやめて戻っていいよって言ったの」


「うん」


「だけど、それから、最近、変なの。好きじゃない人のために掃除したり料理したり、

以前の私は、友達すらいなくて、人が嫌いで、今だって嫌いだけど、

それで、今日、その人に、好きじゃない人のために掃除とか料理とかおかしいって言われちゃって、
確かに、そうなんだけど、もう帰ったらって言われたとき、

なんでか、悲しかったから、

なんだろ、何て言えばいいのかな」


「好きなの?」


「え?」


「その人が好き?」


「え、好きじゃないよ、女たらしだし、あっちだって私のことなんて好きじゃないし」


「ふーん、だとすると、桐は見ず知らずの男のために誰にでも掃除や料理をしてあげられるのか?」


「しないよ」


「なんでその人のためなら出来るの?」


「え…」


「おかしいじゃん、ねえ、そんなこと好きじゃなきゃできないだろ」



そうなのか?
私は白木藍を好きになってしまったのか?

昔の可憐な彼ではなく、今のあの、あの藍くんを?



「その人が他の女の人と居たら、どんな気分になる?」


「いやだ」


「それ好きってことだから、ほんとに気づいてないの?いや、気づいていても認めたくないのか。」


「そうだ、そうか。私は、」



認めたくなかったのか。

今の彼を好きになる要素はないはずだ。

それなのに、私は昔から今へ彼への目線をシフトチェンジしたというのに、

私は変わらず彼を好きなのは、いったいどうしてか。

それは、恐らく、理由は昔と変わらないだろう。



彼そのものが好きなのだ。



彼の人格を抜きにして、彼の姿形頭のてっぺんから爪先まで好きなのだ。



だからだ。