「あ、そかそか、マスクしてるとそう見えんのか」


すると、その人は黒のマスクをはずして見せた。


「ほれ」

「ほ、ほんとだ」


しかも、か、かなり、可愛い顔してる。

目元だけ見ると全然わからなかった。中性的で、整ってるから、余計、分からなかったんだ。

声も低めだし。



「けど、医者ってなんの難しいんだろ?どうすっかな。あたし一年留年してるから、無理かな」

「そんなことない、浪人して医科大にいく人もいるし、留年したって大丈夫だと思う」

「そうかな、けど、バカだからさ、先生に言っても冗談言うなって言われたし、」

「誰も信じなくても、あなたの想いさえあればいいよ。その人に恩返ししたいって、想いがあるなら、

あなたは頑張れると思うもの」


なんだかあつくなってしまった。

いつの間にか、手なんか握っちゃって、私の口は勝手にしゃべる。



「先生が信じなくても、私は信じます。だって、こんな怪我をしてまで、やりたいことを見つけたんでしょう?

あなたなら出来ると思う。
なんなら、勉強教えます」


「………はは、すっごい」


「え?」


「あたし泣いてるよね、今」



ポロポロと、涙の粒が握った手に落ちてきた。

どうしよう、なにか、まずいことを言っただろうか。
それより、私、変だな。

なんで不良の肩を持ってるんだろう。


以前の私ならこんな汚い格好してる不良なんか、大嫌いで、汚いって思ってたはずなのに。


私は今、こんなに強くこの人の手を握ってる。




「信じてるなんて、初めて言われた。あはは……

じゃあ、頑張ろうかな、うん、頑張ろう」


「うん、がんばれ」


「あ、そうだ、名前、なんだっけ」


「私は、…私は矢野です。矢野桐」


「あたしは林山茶花(サザンカ)、へへ、変な名前でしょ。うちのばあちゃんが山茶花の花好きだから、」


「そんなことないです、私も、好きだよ、山茶花、」


「そなの?なんか照れるな」



なんでかな。


こんなに自然に女の子と笑える日が来るだなんて。

けど、今の私は、本当にこの人を応援したいと思ったんだ。好きな人のために、今までの自分を切り捨てたこの人を見て、すごいと思った。


そうか。


私は、何もかも切り捨てられてない私を知ってるから、
この人が輝いて見えるんだ。




「あの、山茶花、さん、」

「長いでしょ?名字でいいけど、皆そう言うし、ね、」

「じゃあ、山花(サンカ)さん」

「すごい略しかたしたな、で、なに?」




「私の話も、聞いてほしいんです」