まさか、普通に接するように言っただけで、こんなに話がもつれると思ってもみなかった。
私は昔の藍くんから離れるために現実を見るために、そうしただけなのに、
それだけなのに。
なんだか今日は疲れたな。
もう外真っ暗じゃない。8時過ぎてるし。
私は結局どうしたいのかしら。
プルルル
プルルル
ポケットの振動に気づき、すぐに携帯を取り出した。
知らない番号だ。
藍くんじゃない。
別に、期待してない。
「はい、もしもし」
『もしもし、パンとコーヒー牛乳買ってきてー、あ、今日会ったとこ集合な』
ブチッ
誰だよ。
あ、今日の昼って、もしかして、助けてくれた人か。
お礼がパンとコーヒー牛乳って、少し安すぎない?まあ、いいけど。
まさか当日に、こんな時間にかかってくるとは思わなかった。
不良だから仕方ないか。
コンビニによって言われた通り、パンとコーヒー牛乳を購入して、昼に私がリンチされた場所へ行った。
真っ暗な路地裏は怖くないわけではなかったけれど、向こうの広がったところから差し込む光で何とかたどり着いた。
すると、昼のあの不良が隅の方に居た。
「あの、」
近づいていくと、彼もこちらに顔を向けた。
昼と同じ格好で、金髪に黒いマスクに、洋ランを着た…不良。
けど、昼とは雰囲気が違った。
服が汚れていて、ボロボロだ。
それに、顔のところどころが青くあざになってる。
それに、指の爪がところどころ痛々しくはがれてる。
「ど、どうしたんですか、その怪我…爪、」
「まあ、色々と。あ、パン、パン」
「これと、はい、どうぞ」
「サンキュー」
「救急車呼びましょうか。すごい怪我」
「呼ぶなよ、こんなの大したことない」
大したことあるでしょう。
すごく痛そうな顔してる。
渡したパンを貪って食べるその人は、随分と腹を減らせてたようで。
すぐにいくつかのパンとコーヒー牛乳を飲み干してしまった。
「ふーーー、満腹満腹」
「昼はどうもありがとうございました。一人ではどうにもならなかったと思います。
また何かあったら、今度は救急箱も持ってきておきます」
「ああ、救急箱はもう必要ないよ」
「どういうことですか」
「えっとねー、今さっき族抜けてきたからもう不良じゃないから!!」
ふっふーーんと得意気な顔で言われた。
族とは、暴走族とかそういうところだろうか。
なるほど、本で読んだことはあるけれど、つまりその爪は、けじめみたいなものなのか。