「こんなのでごめんね、すぐ可愛く切ってあげるから」

「いえ…」

「そりゃ元気もなくなるわね、こんな髪型じゃ、これは自分で切ろうとしたの?」

「いえ、…いや、そんな感じです」

「大丈夫よ、私に任せてくれたら超可愛くしたげるから。元より綺麗にして返すのが私のモットーだからね」


そう言うと、どんどん切りはじめた。
私はうつむいたまま黙った。

そういえば、この人、藍くんのこと知ってるみたいだった。



「あの、えっと」

「朝子よ、けどださいから朝って言ってくれたら嬉しいな~」

「あ、はい、朝さんは藍くんを知ってるんですか?」

「ああ、知ってるわよ~、私の仕事場ここからの方近いからさ、よく来るんだけど、
そしたら、すんごい美しい隣人さんが居たからさ~もう、一回でいいからスタイリングさせてくれないかしら」



そうよね、藍くんは美しいもの。
初めて見た人が目を見張るくらいには。

うう…また、もやもやが…



「あら、そんな難しい顔しなくていいのよ!私はただ彼を自分好みにスタイリングさせてみたいだけだから!好きとかじゃないからね!
てか、私もう26だから、犯罪に成りかねないわ~」

「はは…」

「まあ、そんなわけだから、藍くんの彼女の桐ちゃん、藍くんにこのこと言っといてよ~」

「か、……す、すみませんけど、私、藍くんの彼女じゃないので、」


「あら??そうなの?じゃあ、どういう仲なの?一緒に住んでるんでしょう?」



どういう仲…か。
今思うと、いったいどんな仲なんだろう。
幼馴染みといえばそれまでだけど、ほんとにそれだけかしら?

幼馴染みと普通住まないし、
それに、私にとって藍くんが昔大事な人だったけれど、藍くんは、私のこと、


昔はどう思ってたのかな。


あのとき、ロザリオをくれたとき、ほんとに結婚のことなんて考えてたのかな。


あのころは、本当に優しかったのかな。






「じゃあ、あれね!あなたの片想いかしら?」

「え?」

「そんなに彼のこと考えて悩むなんて、ほんとに好きなのねぇ」

「ち、違います、昔はそうでしたけど、今は、違います」

「あら?そうなの?」

「そうです」

「じゃあ、いったい何をそんなに変な顔で悩む必要があるのかしら?」



後ろは見えないけれど、絶対今この人にやにやしてる。
私、そんなに悩んだ顔してたかしら…

それに、私が好きなのは昔の藍くんであって、今の藍くんじゃない。

確かに、私、少し考えすぎかも。

好きじゃない人のことでこんなもやもやしたり、考え込んだり、

変だね。



「このかおは、もとからです」

「ふふ、元はもっと可愛かったわよ」



なんかこの人と話すと、何も言う気がなくなる。
おかしな人。