「大丈夫、藍くんが好きなのは私じゃないです」
「だったら藍くんに構うなっつーのー、目障りー」
「構ってるつもりなかったけれど、そこまで言うなら善処しましょう」
「なんで上から目線なの?なんかムカつく」
うん、理解した。
この人たちただ私をいじめたいんだ。
だとしたらどうする。
そんなみすみすいじめられたくないし、
早く帰って夕飯作んなきゃだし…
「矢野さんさぁ、髪綺麗だよねぇ、伸ばしてるのかなー?」
「え?あ、どうも。」
誉められた。
「そういや藍くんもー、髪は長い方いいって言ってたかな~。
けどさ、矢野さん藍くんのこと好きじゃないんなら短くしちゃえば?」
なんて準備のいいことだろう。
今時の女子高生がなんて物騒なもの持ち歩いてんのよ。
銀色のハサミをチョキチョキ見せつけながら、だんだんと囲まれてしまう。
まずい流れになった。
私はもともと、藍くんが迎えに来てくれるまではと、願掛けもして、ここまで伸ばしてきた。
再会した今、確かに無意味だけれど、
こんなとこで惨めにショートカットになって帰るなんて、まっぴらごめんよ。
だけど、これじゃ多勢に無勢だ。
逆らっても負ける。
許しをこうても許されない。
お金を渡したら…いや、こんなやつらに渡す金など1ジンバブエドルもありはしないわ。
けれど、このままじゃ…
「ほら!そっち押さえて!」
「わっ、」
一斉に動き出したと思ったら、私はあっという間に拘束され、足はもつれてしりもちをついた。
たった数日前、制服をクリーニングにだしたというのに、またかっ
私、藍くんに会ってからこんな目にあってばかりね。
それに、今から、長年大事に手入れをし伸ばしてきた黒髪が切られようとしている。
「いたっ、やめてっ、」
「やっと嫌そうな顔したわね!大丈夫よ、綺麗に切るからさー」
「早く切ってよー!こいつ力強い!!」
「離しなさいってば!!!藍くんに言うわよ!!」
「そ、そんなの証拠がなきゃなんにもならないのよ、バカね」
まずい、頭真っ白だ。
なんにも思い付かない。
冷静に考えたって、この状況でどう動いても何を言っても、帰してくれる確率は限りなくゼロ。髪を切られ、屈辱的な目に遭う確率限りなく百。
頭皮が張り、頭ごと後ろに引っ張られた。
ザクッ
すぐ後ろで、歯切れのいい音と一緒に、一気に頭が軽くなった気がした。
「あはは、なっが!!」
「もっともっと、」
何度も何度も音がした。
ザクザクザクザク
お世辞にも綺麗に切られてるとはまったく思えないような荒い音。
その瞬間身体中の力が抜けた。
悲しいとか、悔しいとか、そんな気持ちより、
嫌悪感が走った。
人間なんて汚い。
なんて、汚いんだろうね、って。