あ、また、もやもやしてる。
藍くんにほんとに好きな人が居たって、私には関係ないことなのに。
変だな、こんな気持ちになって。
保健室につき、ドアを開けると、先生がファイルを腕に抱えて出てくるところだった。
「あら、桐ちゃん、に、白木くんまで、ごめんなさいね、すぐ職員会議なのよ。
湿布ならそこの棚にあるから、白木くんわかるわよね」
「はい、大丈夫です」
先生はそう言うと小走りで保健室を出ていった。
「桐ちゃん、座って」
「は、はい」
うわ、なんで私今更こんなに緊張してるのかしら。
いつも家で二人なのに、変なの。
藍くんは、棚の前で湿布を取り出してくれているみたいだ。
なんだか、聞きたいこと、たくさんあるけど、
藍くん、怒ってない?よね?
「藍くん」
「ん?」
よかった。優しい声だ。
でも、これも、演技かな。
「本当に、クラスに好きな人が居るの?」
「え?居るよ」
「誰なのよ」
「桐ちゃんに決まってるじゃん」
そんな答え、求めてないのよ。
嘘ばっかり、いい加減、悲しい。
今、一番近くにいるのに、私に対しては嘘ばかりね。
「ごめんね、いいのよ。もう。優しくしなくていいよ。
無理させてごめん。戻っていいよ。その方がなんか、いい気がするから。」
「なんで?桐ちゃんの言うこと全部聞くって言ったじゃん」
「だから、なんか虚しいから戻ってほしいって言ったのよ。言うこと全部聞くんでしょ?」
「虚しいって?」
「だって、私に対してだけ優しいなんて、嘘だもの。全然対等じゃない。私は、藍くんと対等で居たい。
だから、今の藍くんは、好きじゃないけれど、嘘よりましだよ」
藍くんは少し驚いたような顔をして、ため息をついた。
そして片手に湿布を持って私の隣に座り込んだ。
「別にいいけどさ…、好きじゃない俺と居て、メリットあるの?」
「ないよ」
「じゃあ、一緒にいる意味ないじゃん。これは、罰なのにただ、嫌いなやつと一緒にいるなんて、苦痛でしかないじゃん」
「メリットなくても、好きじゃなくても、意味なくても、私、藍くんのために料理したり、掃除したりするの、楽しかったよ。
誰かのために何かしたことなかったから、ありがとうって言ってくれるのとか、嬉しかったし。
わかんないけど、藍くんがもとの態度に戻っても、変わらないと思うよ。」
うん、よく、わからないけどね。
好きじゃないのに、今は、一緒に居てもいいって思えるよ。今だって、藍くんはもとの態度に戻ったけれど、私は変わらないもの。
「うーん、全然わかんねー」
「まあ深く考えなくていいじゃん。私のつくる料理食べてくれれば、いいからさ」
「…まあ、桐ちゃんの作る料理食えなくなるのはちと名残惜しいかもなー。はは」
そんなわけで、同居、続行です。
こんな藍くんとやっていけるかは謎ですが、なんとか、頑張ってみようと思います。