て、あっ、ちょ、

こ、こっちに近づいてきた!?
学校逆方向じゃないの!?

あ、そっかもう、鞄もって帰るとこだから、そのまま帰るのか…

てだから、それどころじゃないんだって!!!

とりあえずここから逃げないとっ、

立ち上がって、なにもなかったみたいに違う方向に歩けばいいのよ。そうそう。

グキッ



あら、何かしら今のえげつない音は。


「ぐあっ」

「き、桐ちゃ……むぐ」


お、お、お、…
おいいいいいいーーーーー!!!?

や、やばい、

見てたのバレた。
しかも、盛大にこけた。本日、二回目だ。


もちろん同じクラスの子にも見つかった。



「は?なに、なんで矢野?がいんの、てか、今藍、名前呼んだ?」


思考をまわすのよ矢野桐!!
この場合、まずは見ていたことを誤魔化すのが最優先、とりあえず、女の子のほうから!!


「わわ私は、通りかかっただけで何も、見てないです、たまたま今こけただけです、気にしないで」

「ねえ、藍、名前で呼んでたよね。うちらのこと名前で呼んだことなんて一回もないじゃん。

どういう関係なの」


あ、そっちの弁解先かーーーー!!

けど、それに関しての弁解は私もどうしたらいいのやら、だって、私は小さい頃からそう呼ばれていたんだから。


「き、聞き間違いですよ、たぶん、いたっ」

立ち上がろうと力を入れたら、思ったよりズキッと足に痛みがはしった。
あの、グキッの音はやっぱりあまりよくない音だったんだな…


「ちょっとー、藍ー、もしかして、」

「黙れよ」


頭上から落ちてくるドスの聞いた低いトーン。
これ、怒ってる。
怖っ。

わ、私がこっそり見てたからだ。

そりゃ、やだよね。

ただでさえ、家では私の監視下にいるのに、学校でもこんなつけ回されて、私、ストーカーじゃない。

うわ、泣きそう。

嫌われたかな。

いや、もとから嫌われてるよな。
でも、もっと、人間として、嫌われたかも。

別に、いいじゃん。だって、藍くんだし。

だけど、でも、


なんで、辛くなるんだ。


「ごめ…ん」

「桐ちゃん、保健室行こう。立てる?」

「え、」


は?


たぶん、今の私と告白した子の顔、同じ顔だ。



「ほら、腕貸して、」

「え、あ、」


なんとか立ち上がった私は、ほとんど藍くんに体重をかけるようにもたれかかっていた。

わー、ずきずきする。


「歩ける?」

「平気、それくらい、平気」

朝一回こけて着替えたのに、また制服が汚れた。
今日は厄日ね。

藍くんまで汚れてしまう。

「藍、その子と付き合ってるってこと?」


この期に及んで聞きますか!?

これは、否定した方がいいのだろうか。
藍くんに好きな人が居ても居なくても、私じゃないことは分かってるんだし、

それに、これまで私と付き合ってると公言してこなかったことからも、今は否定すべきなんだと思う。


「私は、」
「うるせーよ、幼馴染みなだけだ。」


そう言うと、藍くんが歩き始めたので私も引っ張られるように歩いた。
変な歩き方だ…

幼馴染み、か。

嘘じゃないけど、今更だけど、やっぱり、
彼には他に誰か本当に好きな人が居るのかもしれない。