「藍くん、少しかがんで?」
「…?」
私は、精一杯の愛情を表現するために…藍くんの額にキスをしようと頭で考えながら結局藍くんの頭をなでなで。
うん、こういうときに軽々とキスできる自分ではなかったと今さら気づくね。
こっちに顔をあげる藍くんもキョトン顔だ。
そりゃそうよ。
次にどう言葉を紡げばいいかすらわからない。
「桐ちゃん、大好き」
おっとっと。
藍くんは立ち上がるや否や大きな体を私に預けるようにのしかかった。
よろける私を予測したように、藍くんは私を支えるように私の背中に手を回した。
はあはあ。いい匂い。
と、こんなとこで興奮してる場合ではない。
「藍くん、ご飯を作るので離してくれる?」
「うん」
藍くんは私から離れると素直にとたとたソファーの定位置に戻っていった。
まったく、可愛いったらありゃしない。
家ではこんな藍くんなのに、学校ではあんなだものな。
何か、現実がごっちゃになってしまいそうだ。
藍くんはただ私の言うことを聞いてるだけだと強く自分に言い聞かせないと、ふとしたときのがっかり感がすごいのだ。
けれど、何か、私はものすごくうまいこと騙されてる気がしてならない。
だって、今更ながら思うもの。
私が勝手に藍くんを信じ続けた結果が今なのだとして、
藍くんは確かにうそつきだったけれど、今の藍くんがわざわざこんなめんどくさい女の言うことなんて聞くような人には見えないし。
だけど、事実こうして私といるときは私の望むようなことはなんでもしてくれるし、
優しくて、少し甘くて、
…やっぱり、何かたくらんでるんじゃないかな。