で、まあ、今日もまた口数の少ない日なわけだ。
私は、口を頑なに結んだまま掃除機をかけていた。
藍くんは…ベッドでこちらに背を向けて寝ている。
ほんとによく寝るねこの子。
それだけ寝ているというのにいったいどこから眠気がくるのかしら。
掃除機の音で起きないんだから、相当深い眠りについている。
ため息をつきながら掃除機のスイッチを切ると、掃除機は情けない音を出しながら音を消した。
私、実は一度も藍くんとキスをしていない。
別にそればかりしたいわけではないし、キスというものは自然と成り行きでするものだからこちらからせがむことなんてしたくないし、
そうだというのに、
藍くんはせがまれたら誰にでもキスするんだな。
…別に、学校での藍くんがどうだろうと関係ないけれど、
嫉妬なわけもないんだけど、
なんだかもやもやする。
藍くんの寝る部屋に入っていくと、かすかな寝息が聞こえる。
今この瞬間は、彼は私のものだと思える。
こうやって目をつぶって口が少し開いた無防備な状態だと、この藍くんがどっちの藍くんなのかななんて無謀なことを考える。
分からないけど、あんまり気持ちよく寝てるので毛布くらいはかけてやる。
そんなこんなで一週間経ったのだけど、藍くんは私に対して家では私好みの藍くんで居てくれる。
だけど、なんだか虚しい気持ちになってきたのが事実で。
もやもやするし、イライラするし、優しくされることにすら嬉しい裏腹に何か変な気持ちが混じる。
他の女の子とのキスシーンがよみがえる。
なんで私がこんな気持ちにならなきゃならないのか。
しないでといえば、いいのか。
だけど、そう言いたくないわたしがいる。
だって、それは、嫌いな藍くんの方に他の子とキスしないでと言っているようなものだ。
それじゃあまるで、その藍くんが好きみたいじゃない。