藍くんは私の頭に手を伸ばして頭を撫でてくれた。

それがすごく気持ちよくて、
もうとろんとろんに溶けてしまいそうな気分だ。


「ねえ、桐ちゃん、なにをしてほしい?」


また、耳元で甘く囁く藍くんに私の口は言うことを聞かず、勝手に呟き始めた。


「ぎゅって…してほしい」


藍くんは言った通りにぎゅっと体全体を包み込むように抱き締めてくれた。

ほのかに香るシャンプーの匂いとか、
あたたかい体とか、
乾ききってないさらさらの髪とか、


その全部に酔って砕けてしまいそう。


すぐそばには、私の大好きな彼の顔が、私に笑いかけてくれる。


これ以上に幸せなことはないだろう。



「他に、してほしいことは…?」


「ううん、ない。もう、これで十分…」


「……まじで?」


抱き締められた状態で、ふと思考が固まった。



「……今のどっちの言葉?」


「…え…、だって、今の感じそろそろやんのかなーって、思うし」


「やるって、何を」


「何って、夜明けのコーヒーを一緒に飲みたい…みたいな」


「だからなにそれ」


「なんでもない、うん、なんでもないよ。今日は寝よう」



はい終了~と手を叩いて藍くんは私の手を引いて寝室に入った。
寝室には、藍くんのベッドが一つと敷布団が一つ敷かれている。

私は敷布団の方に座り込んだ。



「桐ちゃん、ベッドの方よかったら変わるよ?」

「いいよ、それは藍くんのだもの。私は大丈夫」

「……あ、じゃあさ、もう一個敷布団敷いて俺もそこで寝る」

「え?ベッドあるのに?」

「そしたら、広々とぎゅーってし合えるでしょ?」


藍くんがそういってもう一つの敷布団を持ってきて隣に敷いた。
私はどきどきしっぱなしで、布団に潜り込んだ。

隣でバサバサと、布団の音が聞こえてくる。

また、ぎゅーってしてくれるのかな?
なんて、期待しながら目を閉じていると、足が絡まるように藍くんが後ろからくっついて抱き締めてくれた。


「もう寝たの?」


私はその言葉に答えるタイミングを見失って、黙っていると、電気が消えるのが分かった。

藍くんがぎゅーっと抱き締めてくれるのがわかって、胸はバクバクするし、もしかしたら、起きているのがきづかれているかもしれない。


しばらくして、だんだん眠気が襲ってくる頃に、

うなじをくすぐる感触と、チュッというリップ音で、私は今日はたぶん寝れないということだけは悟った。