なんだそれ、なんだそれ。

私、騙されたのか。

月島あのやろう…
次あったら絶対文句言ってやる。


「…ごめん、藍くん」


「ん、いいよ、これは桐ちゃんが食べればいいからね」


いや、そんな笑顔で言われても胸が痛いよ。

なんだか、藍くんは優しくしてくれるのに、
私は、まったく彼に及んでない気がして、全然満たされない。


藍くんに見合う相手になるために、料理や勉強なんでも頑張ってきたのに、

まだ全然役に立ってない。



「あ、野菜とか買ってきてるじゃん。適当に作って食べようよ今日は。

で、また明日作って」


「ふふ、うん。ありがとう」


なんだろうな、私。

こういう他愛のない会話とか、藍くんの笑顔とか、それだけでなんとなく幸せな気分になれる。

私はこういうのが欲しかったんだなって思う。

私は、藍くんが好きなんだな、と実感する。


3ヶ月でこの生活は終わってしまうけれど、それできっぱり諦められると思う。

そのあと、藍くんと夕飯を食べて、食器を洗って、
二人でテレビを見ながら何気ない会話をした。


先に風呂に入らせてもらって、藍くんが風呂に入っている間に寝る準備をする。

歯磨きをして、口をゆすいでる途中に洗面所のドアが開いた。

チラッと目だけでそれを確認し、私はその目に写ったものに思わず口に含んだ水を勢いよく吐き出した。

なんて綺麗な背中なんだろう。


藍くんがこちらを見てないのをいいことにじっとその背中をガン見してしまった。

すると、藍くんはそれに気づいて近づいてきた。


「見てた?」

「…ごめんなさい、思わず」

「なんで謝るの?僕、桐ちゃんにならなにされてもいいよ」


その姿で耳元でそんなこと言われたら、くらくらして今にも倒れてしまう。