ドキッと胸がなった。

何か、とても悪いことをしてるような気分になった。


だって、私は藍くんのために料理を作ろうとしているのに、

これは、償いで、

藍くんだってそれを分かっているのに。


「性格ブスは、当たってたね」

「何よ、私のことなんて、私の気持ちなんて、何にも知らないくせに」



私は、裏切られたのよ、八年間も。

ずっと、優しい藍くんを、待ち続けたのよ。




「俺は、少なくともお前より白木を知ってるよ。

白木の気持ちも」



な、な、な、なんなのよおおーーー!!!もーーー!!!

なんで私がこいつにこんなにイライラしなきゃいけないのよ。

私は、悪くないのに…



「白木の好きな食べ物カニだよ。

いーーっぱい買って、食べさせてあげなよ、カニ」


「はぁ?」



そういって、彼は私に背を向けて行ってしまった。

私はもやもやしたままかごを戻して店を出た。
当分顔もみたくないわ。あんなやつ。

また店のなかで会うのも嫌だし、

なんで最後に藍くんの好きな食べ物を教えてくれたのかは分からないけれど、

とにかく、藍くんの好きな食べ物は分かったし、
別の店に行って買いに行こう。

ああ、腹が立つ。


深く深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。


何よ、私だって藍くんのこと知ってるんだから。


綺麗な長いまつげとか、
白い肌とか、

他には、

他には、



まあ、色々と、
知ってるわよ。


別の店でカニと、あとは適当に野菜を買って藍くんの家に戻った。


「た、だいまー」


言ってみたかったので小さくつぶやきながら、靴を脱いで部屋に入った。

藍くんは、ソファに座って携帯から目を離すと私を見るなり「おい」と口を開いた。


「勝手にどっかいくなよ、もう帰ったのかと思った。まあ、別にいいんだけど、」


「こんなに早く帰るわけないでしょ!?夕飯買いにいったの、愛くん寝てたから」


「どっかいくならメールでもなんでも入れとけ。分かったな」


「うん、ごめん。というか、口調が完全にあれよ、間違ってるわよ」


「あーー、はいはい、うっかりしてた。あ、学校では他に人いたら素だから嫌なら近寄らなくていいからね?

桐ちゃん次第だけど」


「わかった、それより、ご飯にしよう。お腹すいたでしょ」


「うん、なに買ってきたの?」


藍くんが食いぎみに袋を覗こうとするので、私は、中身を取り出してじゃーんと机の上にそれをおいた。


「どう?どう?」


「え、あ、はは、……カニ、かぁ」


「藍くん、好きなんでしょ?カニ、月島くんに偶然あって教えてもらって、」


「……桐ちゃん、悪いけど俺、カニダメなんだよ。アレルギーで。
……あと、月島の言うことはだいたい嘘だから、信じないでいいよ。」