「ま、待って、お待ち下さい」


「…何ですか」


この人は年がら年中こんなダルそうな顔とだらしない服で生きてるのかしら。

というより、前髪で顔がいまいち把握できないのだけど。

ていうか、同世代よね。
仕事なんてしてないだろうし、高校生かしら。


「何、早く言って」


「あ、えっと、藍くんの好きな食べ物知ってますか」


「教えない。さようなら。」


「あ、ちょ、待て…待ってください、」


そして、どうして私は敬語なんだろう。

この人、なんか怖いのよね色々と。



「ビッチ嫌い。白木のとりまきは皆顔も性格もブス。お前も嫌い。

なんか健気アピールとか好かれようとしてるんだろうけど、どうせ捨てられるんだからなに作っても同じじゃん。」


な、なにーーー~~っっ!!?

こいつ何にも知らないで色々言いやがって、しかも人のことをビッチビッチって、

あんたの方がよっぽどだらしなくて、ブスだよっ


なんて、まあ、言わないけれど。


「あの、勘違いしてるようなので言っておきますけど、

私は、藍くんのこと嫌いですから。一緒に住むのもちゃんとした理由があるし、ビッチと言われるようなこと一度だってしたことないし、

何より、私、ブスじゃないですからっっ‼」


「へえ、処女なの?」


「なんでそこだけピックアップするの!?そんなことばこんなとこで口にしないで‼」


「うるさいよ、てか、嫌いなら好きな食べ物作る必要もっとないじゃん」


「そ、そうだけど」


そういう問題じゃないし。

今の汚い藍くんは嫌いだけど、優しくしてくれる藍くんは好きだもん。

私は、優しくしてくれる彼に作るんであって、今の彼のためにだなんて微塵も思ってない。


「色々、めんどくさいからやっぱり言っておきます。

私、藍くんと昔結婚の約束をしたんです。それで、私はそれを今までずっとずっと信じ続けてたのに、

藍くんは昔とすっかり変わってしまって、約束もなしになって、だから、私の8年間の償いをしてもらうために、3ヶ月一緒に住むことになったんです。

私といるときは昔のように接してくれるし、してほしいこともしてもらえます。

私は、その昔の彼のために料理を作りたいんです。」


私は間違ったことなんてしてない。

だから、月島くんに文句言われる筋合いだってないはず。

月島くんは、私を見下ろしてクスッと笑った。



「可哀想な白木」

「つ、償いですから、」

「ほんとうのあいつに見向きもしないで、空想の中の男のために作った料理を食わされるなんて、可哀想だ」