慣れなくては、いけないのだわ。



「桐ちゃん、何かしたいことはある?」

「え?そ、そうね…わっ、」


後ろからぎゅっと抱きすくめられ、ぼんっと顔が暑くなった。
藍くんの、うで、気持ちいい…

そのまま藍くんはベッドに座ると私のうなじ辺りに顔を埋めながらクスクス笑った。


「桐ちゃんのしたいこと、言ってみて?」

「な、なんでも?」

「そうだよ」

「えーと、引かない?」

「引かない引かない」

「掃除をしてもいいかしら」

「えー、ダメ?結構片付けてるほうだと思うけど」

「私、ダメなの、埃がほんとに、すぐ、すぐ、終わらせるから‼」


藍くんの、膝から立ち上がると大急ぎでキャリーバッグからエプロンを取りだしぎゅっと紐を腰に巻いた。

掃除グッズを手に掃除を開始する。

始めは軽くするつもりが、いつの間にか大掃除になっていたことに、私は気づいていなかった。

気づけば、二時間以上ぶっ通しで隅々まで磨きあげていた。


事態に気づいたのは、夕方になったころ、私はふぅ、と息を吐きながらはっと我に返った。


大変だわ。

長時間に渡って藍くんを放置してしまった。


きっと、いくら藍くんでも、呆れているに違いない。


水場からそろそろと藍くんのいた寝室のベッドをのぞくと、スヤスヤと眠る藍くんの姿があった。


とりあえず、よかった。

怒ったら、現在の悪い藍くんに戻ってしまう気がしたので、本当によかった。


ダメだわ、私ったら、掃除に夢中になっていたなんて。


肝心の藍くんを放っておくなんて、私は、いったいここに何しに来たのよ。