来た、来たわ。

白木藍くん。


「俺の家こっちだから」

「そ、そうなのね、間違えたわ」


はは、と適当に笑って藍くんの背後にまわりとりあえず頭を軽く下げた。

後頭部をかきながら私と藍くんを交互に見たその人は、急に舌を出した。


「藍くん、君の家のビッチちゃん、ちゃんと管理しといてよ。
間違ってうちに来られたらたまんないじゃん。じんましん出ちゃう」


「ビッ…」


ビッチですって!!?

私のこと??

なんとなく、初めから嫌な感じだとは思っていたけれど、予想通り嫌な人ね。

人をビッチ呼ばわりなんて、失礼にもほどがあるわ。


「悪い月島、気を付ける。こいつ3ヶ月いつくけどまあ、居ないと思っていいから」

「なっ、」

「うん、そうする」


あくびしながらドアは閉められ、微妙な気分のまま私はその月島という人とのファーストタッチをしたわけだけど、

もう二度とお会いしたくないものだ。


「桐ちゃん」

「は、は、はい、」


そして、優しい声に呼び掛けられ嫌なことを全て忘れてしまうほど単純な私だ。


「俺の家はこっち、ちゃんと覚えてね。月島は女嫌いだからあんまり関わんないでやってね?」


「わ、わかった、」


やばいな、その笑顔で見られたら、もう、鼻血がそこまで沸き上がってる気分になるよ。


優しい藍くんに手を引かれ、私は藍くんの部屋に足を踏み入れた。


「好きにくつろいでいいからね、」

「うん、……う、ん、へへ、…いや、…あの、」


薄暗い、日のあまり入らない部屋。

適当に畳まれた服がベッドに軽く山を作っており、そして、ふわふわと漂う、埃…

これが、たぶん、恐らくは、世間一般の家なのだわ。