「あの、私、こう言いながら、やっぱり藍先輩のこと忘れられてないんだと思います。
藍先輩に初めてあって、がむしゃらに関係を求めて、やっと付き合ってくれるところまでこぎつけて、あっさり振られて、もう、懲りたと思ったのに、全然なんです。
私、たぶん、相当面食いなんですよね。あんなひどい別れかたしても未だに藍先輩のこと思い出すんです。
なのに、私は振られたのに、桐先輩と藍先輩は好き同士なのにお互いの関係が一歩下がってるように見えて、少しイライラしてました」
「そう、かもね」
今思えば、すれ違ってばかりだ。私たちは。
初めに、私が気持ちを改めたとき、藍くんも私を好きだとあかして、私はそれが信じられなくてもんもんとして。
私は藍くんのこと、顔しか好きじゃないって言い聞かせて。
それから、また、気持ちの変化に気づいて、
いろんな不安が入り交じって、藍くんに本気でぶつかったら、拒否されて。
決して、上手くいくことはなかった。
「私、藍先輩のこと好きですけど、桐先輩とちゃんと上手くやってほしいって思います。
たくさん、難しいことあると思いますけど、全部全部乗り越えて、二人がちゃんと一歩踏み出してくれたら、私は、嬉しいです…」
「ふふ、菫ちゃんって面白いくらい優しいわね。」
「そ、それは、桐先輩の方でしょ。だって、私が藍先輩と一応付き合ってたとき、
私が三年生の女子と鉢合わせしないように一緒に玄関まで来てくれたじゃないですか」
「ああ、あれは、自分が経験したから、なんとなく、」
「ふつう自分の好きな人の彼女のこと心配しないですよ。だから、桐先輩って、ほんとに優しいと思います」
「いや、全然そんなことなくて…」
「じゃなきゃ、こんな風に話聞いたりしませんからね」
まっすぐな目って、弱いな。
思わず背けたくなる。
私は、うまい答え方を見つけられずに、そう、と一言だけ返した。
「あ、そろそろ行かないといけませんね」
菫ちゃんはぺこっと頭を下げて、教室を出ていった。
私も、あとに続いて出て、自分の教室に向かった。
菫ちゃんは、まだ、藍くんに想いを抱いて、藍くんの病気のことをどう思ってるんだろう。
どうやったらあんな風に余裕が持てるんだろう。
私は、会わないだけで、寂しさと心配でいっぱいいっぱいなのにな。