保健室に行くのをやめて、私は彼女と空き教室に入っていった。

椅子に座ってから、電気をつけてないことに気づいたけど、別に問題ないからそのまま。

廊下から楽しそうな笑い声や、足音が聞こえてくる。

この教室は静寂に包まれている。


「いつ…知ったの?」


私がそう聞くと、菫ちゃんは素直に答えてくれた。


「別れるときです。ていうか、付き合ってるって言っていいのか分かりませんよあんなの。私、名前覚えられてなかったですし。

私が少し粘ったら、詳しくは教えてもらってませんけど、自分が死んだらどうするって、聞かれて、私なんにも答えられなくて、

桐先輩は、そのとき、知らなかったんですよね…?」


「…そうだね。知らなかった。…この前藍くんが倒れて、それからずっと入院してる。

私は、色々と、あって、藍くんには会えないんだけど」


「色々…って」


「まあ、色々……。私は今は藍くんの側に居ない方がいいから」


「寂しいですね」


「…そうね。なんか、藍くんが居ることが当たり前になっていたから、会わない間が、不安で仕方ない。

いま、どんな気持ちで藍くんが居るのかも分からなくて、私には、なんにもできないし、」


「…そうですよね」



藍くんは、私に顔を見られたくないという理由で私を遠ざけた。

私も、自分が藍くんなら同じ事を思うと思ったから、そうしたけれど。

自分のしたことなのに、もう、寂しいって思っている。

これじゃあ、私の方がもたない気がする。


「私も、詳しいことは知りません。それに、もう、藍先輩には関わらないって約束したんですけど、やっぱり気になってしまって、

私でよければ、桐先輩の話、聞きます」


謙虚にそういってくれる菫ちゃんに、私は内心嬉しく思いながら、自分の弱さを感じた。

今年の受験に向けて、頑張っている山花をあまり私情で呼び出すのは迷惑がかかる。

だから、そういってくれて、嬉しかった。



「ありがとう、けど、少し、気が楽になった。この学校で私は一人な気がしていたから。

クラスでは藍くんの根も葉もない話ばかりだし、病気だなんて、言えないし」


「はい、私ならいつでも、大丈夫です。」



菫ちゃんがにこっと笑った。