「桐先輩」


はっ、と我にかえり、顔をあげた。

保健室へ続く廊下で私は立ち止まっていた。


そして、目の前には私より背の低い女の子。


「……あ、」

「こんにちは…えと、菫です」

「こんにちは…」


お互いペコッと頭を下げて、向かい合った。

えっと……なんだろう。


私、名前呼ばれたよね。

私に、用があるんだよね…?


言いにくそうに口を閉ざしてる菫ちゃんに私は、微妙な気持ちを抱いた。

そういえば、藍くんの元カノだったのよね。

いったいどんな振られ方をしたんだろう。


それについて、文句かしら…


今は、それどころじゃないのに。



「…あの、藍先輩は…なにか、体調が悪くなったり…したんですか」


一瞬反応しそうになって、止めた。

体調っていっても、休めばそりゃ風邪とかそういうものだと思うだろうし。

この子が藍くんのこと知ってるとは思えない。


「さあ、どうかな」


笑顔をつくってそう返した。


「あ、藍先輩のこと、詳しく……、知ってますか?」

「なに?詳しくって」

「それは…その、」

「知ってるの?」

「え?」


どうしてそんなにおどおど言うの。

まるで、私が知らないかもしれないみたいな言い方して。



「藍くんが、死んじゃうかもしれないって、知ってるの」



私は、いま、どんな顔してるんだろう。

菫ちゃんは、私の顔を見て小さく頷いた。


なぜか、泣きそうな顔をしていた。



「あの、よかったら話しませんか?あ、大丈夫です、私、今は藍先輩のこと、好きとかないですし、嫌なら、…いいんですけど、」


「……少し、だけ」



声に出してようやく泣きそうなのは私だと気づいた。

私、泣きそうなのに、少し安心していた。
気持ちを共有できる人が、この学校にもいた。

それを分かった瞬間から、


私は、一人じゃないと思うことができた。