それを見た藍くんは、また、ぷっと笑った。
「んなもん、さっさと捨てろよ。
持ってたって、意味なんかねーよ。
未練がましいやつ」
人の堪忍袋が切れるときって、
ブチッて、言うらしい。
まさに、今、それ。
「私あなたが嫌い‼‼‼‼顔以外全部嫌い‼‼」
「ちょっと誉められた。」
「誉めてないし、とにかく嫌い、もういい、もうあなたの顔見たくない」
その場から去ろうと藍くんもどきに背を向ける。
なんだか、泣きそうだ。
本当は心のどこかで思っていた。
藍くんは、もう私のことなんて忘れて、違う女の子と居るんじゃないかとか、
だって、8年よ。
8年音沙汰無いのに、信じ続ける私。素敵。じゃなくて、
普通、もう、終わっていると考えるのが無難なのだと思う。
だけど、信じたい私が居るの。
藍くんが、
嘘をつくわけないって。
その時、私は前屈みに体が傾いた。
腕を締め付けるものに気づいて、私は眉を寄せて振り返った。
思い切り、振りはなそうと思った。
だけど、それより早く、私の耳に届く彼の言葉は、私を動揺させるのに十分すぎる意味を持っていた。
「大きくなったら、僕は桐ちゃんのものになるよ。
だから、その時は、桐ちゃんも僕のものになってね。
約束だよ?」
忘れもしない、言葉。
何年もの間、私を縛り続けてきたその言葉が、
彼の口からそっくりそのまま飛び出したのだ。
私は眉の力を解くと恐る恐る顔を上げた。
そこには、あの頃の藍くんの綺麗すぎる笑顔があって、私は夢でも見てるのかと思うくらいには動揺していた。
「藍く…」
「くっ、ふ、ふぁはははは‼」
かと思いきや、すぐさまその笑顔を崩して下品に大笑始めるその顔は、昔の藍くんの笑顔とまったく違っていて、
すぐに目が覚めた。
けど、なぜ、あの言葉をこの人は…
「よーーーーく、覚えてるよ?なあ、矢野桐ちゃん。
そのロザリオ下げてるの見た瞬間に気づいてた」
「な、」
「ごめんねぇ?こんな男になってがっかりしちゃったー?
はは、てか、あれからずっと俺のこと待ってくれちゃったの??健気すぎて泣けるねぇ~
けど、それ、半分ストーカーだからさーあはは」
嘘よ、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘
信じない信じたくない
藍くんが私を忘れてる方がまだましだわ。
こいつが、本物の藍くんだったなんて、
そんなの、絶対…ありえないわ。
「嘘だ‼‼‼‼」
「嘘じゃねーし、分かってんだろ。あんたが俺を見つけたんじゃん。
まあ、とにかく俺のことは早く忘れて他の男捕まえな?いつまでも俺を追いかけてちゃあんたの人生俺が壊してることになるし、
そういうのやだからさ~そういうの怖いじゃん?」
「あ、う、あぁ、あ、嘘、嘘、」
「まあ、さすがに桐ちゃんの8年間奪ったの俺だからさぁ、その詫びならなんでもするから、あ、桐ちゃんのものになる以外でね?
俺なんでもするから言ってよ」