それに、私が今藍くんの側にいることは藍くんにとって本当に、苦痛なのかもしれない。

もし、私が藍くんの立場なら、弱っていく自分を見られたくないと思う。きっと。


だから、私は、今は藍くんの目の前に居ない方がいいのかもしれない。



「桐ちゃん……頼むから………」


藍くんの言葉が、本当の気持ちだとわかる。

藍くんがその方がいいのなら、そうした方が、藍くんが無理せずに済むだろう。

私のわがままで藍くんに気負わせるのは、体に悪い。


「わかった」


声を振り絞って、そう言った。

藍くんの顔が一瞬緩んだように見えた。けれど、そのとき完全に開かない目が揺れていた気がした。


「じゃあ……これで……会うのは最後………だから」


それなのに、無理して、作った笑顔が痛々しすぎて、だけどここで私が泣いては元も子もない。

藍くんが今前向きになれる言葉はきっとどこにもない。

これから、少しずつ、私の計画で生きる希望を持ってくれたらいい。


「抱き……しめさせて…」


もちろん、起き上がる気力のない藍くんが、私を抱きしめることは出来ない。

けれど、そんなこと口にするほど野暮じゃないから。

私は、藍くんを優しく抱きしめた。藍くんの頬に自分の頬をあてた。

1秒1秒を噛み締めるように、藍くんを忘れないように。


離れるのが寂しい。

離れたくない。でも。


最後に、藍くんの頬にキスをして、額と、鼻にもキスを落とした。

額を合わせて、目を閉じた。


本当の、キスは、藍くんが元気になってから。


ゆっくりと藍くんから離れた。

藍くんの目からぽつりと1滴の涙が伝うのを見た。

元気付けたい、けれど、今は言えない。


ごめんね、藍くん。


全てが成功したあと、私をバカにするくらい藍くんが元気になったら、

もっと、強く抱きしめるよ。

それから、キスする。



それまで、どうか、藍くんをこれ以上辛くさせないで。




私の、世界一愛する人を、

悲しませないで。



「桐ちゃん……行って………」


「うん」


「……バイバイ」


「またね」




また、会おうね。




藍くんが、元気になったら。