もう、意地を張ったりしない。
これからはちゃんと、自分の気持ちを素直に言おう。
あのときのこと、謝ろう。
藍くんの私より大きい手を両手で握った。
こんな時なのに、触れてほしいなんて不純なこと考えてる。
ダメだけど、少しだけ。
体をベットに倒して、藍くんの手のひらに頬をのせた。
冷たい手。
なぜだか色々込み上げてきたのをぐっと抑えて、目を閉じた。
そして、深呼吸した。
これからは、私が藍くんを守るから。
藍くんも、もっと素直になってくれたらいいな。
そうしたらもっと、うまくいくんじゃない?
私達、お互い傷つかないで済むんじゃないかな。
そう思わない?…藍くん。
そのとき、藍くんの手が私の頬から抜け出て頭の上にぽん、と載った。
私は驚いて顔をあげた。
藍くんがうっすらと目を開けている。
私は声を出そうとしたけれど、ぐっとそれを抑えて小さな声で呟くように言った。
「藍くん、おはよ」
藍くんはゆっくりと周りを見渡した後に掠れた声で話した。
「ここ…」
「病院。今日から入院」
「…………ん」
「お腹すいてない?」
「………いい」
藍くんの目は私を捉えていなかった。
どこかぼんやりとしていて、覇気がない。
疲れてるんだろう。
「看護師さん呼ぶね」
「まだ……いい」
「そう」
「…………」
藍くんが何も話さなくなったのを見て、私は藍くんの病気のことを話したいと思ったけれど、やめた。
まだ起きたばかりなのに、難しいことを考えない方がいいだろう。
それよりも、優しくしよう。
「藍くん痛い?」
「追い出して…ごめん」
「え?」
驚いた。
まだ起きたばかりなのに、最初に言うのがそれなの。
それに藍くんが謝った。
予想外のことで、私は考える暇もなかった。
「けど……もう、いいから。俺のこと見ないで……今絶対…顔変…疲れて目…開かない…
来ないでいい……側に居られないって……分かっただろ」
小さな声に耳を傾けて、最後まで聞いた。
私は、すぐに首をふった。
「桐ちゃんの前で……こんな姿見せたくない……から………」
「見せてよ、藍くんの弱いとこ、私このまま藍くんから離れるなんて嫌。
どんな顔だっていいよ。藍くんは、どんな顔だって変なんかじゃないよ。私、藍くんのこと、ちゃんと好きだもの」
藍くんが困ったように顔をしかめた。
「……好きな……人に……死ぬとこなんて見られたくない……」
藍くんの震えた声が私の耳に届く。
藍くんの手をぎゅっと掴み、藍くんの顔を見る。
やつれてる。辛そうだ。
好きな人って、言ってくれた。私のこと。
心臓移植のこと、藍くんに説明しようと思ったけれど、藍くんのことを思えば言わない方がいいような気がした。
私が彼を助けると、藍くんはもっと私に対して無駄な感情を背負い込んでしまうかもしれない。
だから、言わないでおく。
先生には私が伝えることにしよう。