「白木さんのお見舞いですね。」


白の制服を着た看護師さんに案内されて、私達は病室に向かった。

スライド式の扉を開けると、思ったよりも小さな空間に1つのベッドがあった。

そこで藍くんは、天上に顔を向けて目を閉じていた。


「大丈夫とは思いますが、もし今日も起きなければ明日一度また検査すると思います」


「だ、大丈夫、なんですよね?」


「はい。まあ、人によってまちまちですからね」



看護師さんの話をよく聞いたあと、看護師さんは一度部屋を離れた。
静まり返った病室に3人取り残されてしまった。皆の目線の先は同じで、藍くんの白い顔を見つめていた。


「早く起きるといいけどなー」

「お前がいると起きないんじゃない」

「な、そんなことないっすよー!」

「顔も見たことだし、白木は起きてないし、お前も帰って勉強するよ」


山花が反抗するように、えー、と声をあげた。


「桐もまだ居るし~」

「うるさい、帰るよ。次のテストそう遠くないんだからな」


山花は口を尖らせながら渋々と立ち上がった。たぶん、月島さんは気を使ってくれたのだと思う。

私は二人を見て少し笑った。



「私はもう少しだけここにいます」


「ん。遅くなんないうちに帰りなよ」


「桐ー、またねー」



二人が部屋を出て、スライド式の扉が最後まで閉まるのを見てから、もう一度藍くんの顔を見た。

あまり、顔色はよくなさそうだ。

青白い顔をしている。目元も疲れているように見える。
明るい茶髪も、寝起きよりもずっとボサボサで。

本当に、弱っているように見えた。


本当に、弱ってるのだけど。


私に教えてくれなかったのは、私が離れていくと思ったから?

そんなわけないのに。

あんなひどい再会をされて、同居までして、今更あなたから離れるわけがない。

こんなに好きにさせて、また姿をけすつもりだったなんて、そんなことさせない。


ずっと、藍くんのなかに昔の優しい藍くんの姿を探そうとしていた。

でも、どこにも残っていなくて、本当に別人のように変わってしまった藍くんを私は嫌いだって思っていた。

そして、藍くんのことでたくさんもやもやしたり、藍くんが触れてくれたことにちょっとだけ嬉しいと感じたり、


その気持ちを全部すぐに受け止められるほど、簡単にはいかなかったから、

また、たくさん理由をつけようとしたよね。


藍くんの感情を全部歪んでるって思ってたよね。


性格悪いとか、バカとか、アホとか。


そんなことないよ。私。



藍くんだって、普通の人だったよ。



近づけたと思ったら、急に突き放したり、なに考えてんのか全然わかんなかったけど。

今なら分かる気がする。


彼が精一杯悩んでいたこと。



ずっと、揺れていたこと。



私、藍くんにずっと側にいたいって言ったとき、藍くんの気持ち壊してしまったんだね。

ごめんね。




本当に、ごめんね。