いくらでも帰ろうと思えば家に帰れたはずだ。

なのに、ちっとも足に力が入らなかった。
ここから離れてしまえば、もう、2度と会えない気がする。

その思いが私をどうしても留まらせた。


ここに居たって、どうすれば良いかなんて分からないけれど。


じっと膝を抱えて動かなかった。

藍くんに怒られても絶対にここを動く気はなかった。


どうして?

私はどうして、ここにいるのかしら。



私は、そんなに彼が好きだっけ。



なぜだろう。


私は、外見以外に彼を好きではないはずなのに、彼が、心配で、心配で、仕方がない。


もう、この感情も、よく分からない。

どうして彼のために私は泣くんだろう。


こんなに気にかけているんだろう。


頭のなかが、全部、藍くんで埋め尽くされている。



失いたくない。


手に入らなくても、いつの間にか消えるなんて、絶対に、絶対に、嫌だ。




「わっ」



変な声聞こえた。


驚いたような、そんな声。

しばらくの沈黙のあと、また、声が聞こえた。




「なに、けんか?ついに追い出された?」



声が近づいてきた。

私は黙ったまま顔をあげた。



「今何時か分かってんの?12時前だけど」



もう、そんな時間だったのか。
通りで眠くなってきたわけだ。

月島さんは、ドアを叩こうとしていた。

私は、咄嗟にそれを阻止する形で腕を伸ばした。



「…なに?」


「いいよ。呼ばなくて。」


「なに意地はってんの?ケンカなら早く仲直りした方いいでしょ」


「喧嘩とか、そういうレベルじゃ、ないから」


「殺し合いでもした?」


「……ほっといてよ……」