川上さんは泣きそうになっていた。
 でも、必死に堪えて、また、困ったように笑う。

 どうしてそんなに笑うのだろう。
 どうして感情を偽るのだろう。
 そもそも、どうして感情を表情に出そうとするのだろう。

 分からない…分からない…分からない

 「あのね、東雲さん。今日私、美術部が休みなの。一緒に帰らない?」
 …今は朝だ。来たばかりなのに、もう帰りの話しか…。
 …そういえば、川上さん、美術部だったんだ。
 「無理」
 近寄らないで。どうして分からないの?
 「そ、そんなこと言わずに…」
 『ガラガラ』
 「それでさー」
 「あはは、マジー?」
 川上さんの言葉を遮ったのは、同じくこのクラスの女子。名前は…、正直興味がない。
 「あ…」
 ばっ!!と振り返った川上さん。
 相手を見るなり、そそくさと自分の席に 戻って行った。
 あれか。二人きりでないと話せないタイプの子か…。