南天さんの後ろ姿が見えた。

「南天さん!」

「えっ!何でここに!」

南天さんは無事だったようだ。よかった……

「あの、さっき何かありませんでしたか?」

「何もなかったけど……」

おかしい。右の道からも聞こえる声なのに、なぜ南天さんは何もないって……

「苦しい……助けて……」

また声が聞こえる。けれど、南天さんは気づいていない。

すると、今度は何か薬品のような臭いがしてくる。

この臭いは恐らくこの道の先の町から来ている。

「ハンカチで口を押えて!」

そう言われて、私はハンカチで口を押えた。

道をまっすぐに歩いていくと、なんだか暗い街に着いた。

町に来ると、不思議と臭いはしなくなった。

この町から臭いが来ていると思ったが、気のせいだったらしい。

南天さんは、透明な液体を試験管に入れて何かを調べている。

「あれ?反応が出ない。いつものじゃなかった?」

不思議そうな顔をしたあと、また別の薬品で調べている。

「この町、人いるのかな?」

人の話し声が全く聞こえない。家はほとんど灰色で、なんだか不気味だ。

地面をみると、木の板が落ちている。

「何だろうこの板……」

私は板を拾って調べる。その板には、太部と書かれていた。

「太部って、南天さんが言っていた……」

どうしよう……太部に来てしまった。大丈夫かな……嫌な予感がする。

私は青ざめた顔で周りを見渡した。空は曇っている。キイィという音がし始めた。

今までなぜ気づかなかったんだろう。とても高くて黒い塔が見える。そして、家の壁を見ると……

黒いペンキで10と書かれていた。