百合子は、ぬかるんだ地面にお尻を這わせながら、ゆっくりと後ずさりした。


逃げなくてはならない。


ここにいたら、この顔のない化け物に何をされるかわからない。


降り続いていた雨が、しだいに強さを増し、今では大粒の雨が、地面を叩き始めている。


百合子の頭の中に、小夜子と武士の顔が浮かんだが、百合子の悲鳴は二人には届かない。


百合子は、立ち上がるにも足に力が入らず、ぬかるんだ地面を這いつくばることしかできなかった。


芋虫のように逃げ惑う百合子に、顔のない女がゆっくりと近づいてきた。


そして顔のない女は、怯えて体を震わせている百合子を見下ろして言った。


『あなた……、私のことが……、怖いの?』