私は霊安室を出ると、誰もいない病院の廊下を魂が抜けてしまった人形のように、フラフラと歩きながら、自分が失ってしまった大切な人たちのことを思った。


〈 お母さん……。

お母さんは、最後まで幸せにはなれなかったね。

私、お母さんを幸せにしてあげたかったのに、その願いは叶わなかった…… 〉


私は一度、立ち止まり、屋上まで続いている階段を見上げた。


そして、何かに導かれるように、その階段を上り始めた。


〈 武士さん……。

あなたは最後まで、私の憧れだった。

私が生きていて、周りの人たちに自慢できることは、あなたと一緒になれたこと。

あなたと一緒にいれた月日は、私の大切な宝物だから…… 〉


静かな病院に、私の足音だけが響いていた。


私は階段を一歩一歩上りながら、病院の屋上に行こうと考えていた。


あそこならば、きっと私も、確実に死ぬことができるはずだから……。