心から強く願えば、きっと願いは叶う。


母が言ったその言葉は、ただの夢物語かもしれなかった。


本当は、いくら心から強く願っても、現状は変わらないのかもしれなかった。


でも私は、母が言ったその言葉を心から信じきった。


私は、心から強く願いさえすれば、きっと願いが叶うと信じたかった。


だって恵まれない私が、母が言ったその言葉を否定してしまったならば、私は、貧しさを受け入れ、幸せな家庭をあきらめ、輝きのない未来を認めなくてはならなかった。


だから私は、母が言った夢のような話を盲目的に信じきった。


でもそんな私でも、ときどき心の隅で、世の中の本当の姿を覗き見ることがあった。


実際のところ、人は自分の器量に気づき、いろいろなことをあきらめながら生きていくのだろう。


そういうことの繰返しが、大人になるということに違いない。