百合子は、転びそうになりながら、アパートの階段を駆け下りた。


そして、少しでもこのアパートから遠くに逃げようと、何も考える余裕もないまま、全力で走った。


百合子は、また背後に迫ってくるかもしれない悪霊たちが恐ろしかった。


〈 誰か私を助けて!

お父さん! お母さん! 〉


百合子が泣きながらそう思ったとき、百合子は、お父さんとお母さんがいるはずのあの家に行こうと思った。


いつだって、どんなときだって、お父さんとお母さんは、自分のことを守ってくれていたから……。


百合子は必死に走りながら、家族三人が、まだあの家で楽しく暮らしていたときのことを思った。