ひんやりとした冷たい手が、百合子の頬を触った。


百合子は、頬に感じたそのひんやりとした不気味な感触に、ゾッとして体中から血の気が引いた。


悪霊はもう、自分のすぐ後ろにまで来ている。


〈 早く……、早く逃げなくちゃ! 〉


〈 やっと、捕まえたわ 〉


悪霊の不気味な声が、背後から聞こえてきた。


百合子は、ドアノブをひねり、何度もドアに体当たりをした。


〈 私たちの憎しみを、お前は、身を持って知ることができるのよ 〉


百合子は、ドアが壊れんばかりに、小さなその体で、ドアに体当たりを繰り返した。


〈 さぁ、死んでしまいなさい。

私たちの恨みと憎しみを噛みしめながら 〉


百合子が無我夢中でドアに体当たりをしたそのとき、あれほど開かなかったドアがやっと開いた。


百合子は、アパートの部屋の外に出ると、無意識のうちに玄関の方を振り返っていた。


すると百合子が振り返った先では、三人の悪霊たちが、殺意と憎しみのこもった目で、じっと百合子をにらんでいた。


〈 早く逃げなくちゃ!
こんなところにいたら、私はきっと殺される 〉


百合子は恐ろしくて、その場から、必死になって走り出した。