「お母さん!」


私は思わず声を上げ、様子のおかしい母の方へと駆け出した。


「お母さん、いったいどうしたの?

お母さん……」


私は母に話しかけたが、母は私に気づかず、小さな体を震わせていた。


「お母さんは、いったいどうしたんですか?」


私は、母に付き添っていた看護師に顔を向けた。


「ああ、寺田絹子さんの娘さんですか?

寺田さんなんですが、十一時少し前くらいに大きな悲鳴を上げて、私たちが病室に入ってきてから、ずっとこの調子で……」


「母が悲鳴を……。

いったい、この病室で何があったんですか?」


「それが……、何もないはずなんですが……」


「何もないですって?

だったら、母はどうして悲鳴なんか上げたんですか?」


「正直、それはわかりません。

でも、寺田さんは何かに怯えているみたいで……」