もうほとんどの生徒が帰ってしまった放課後の校舎で、私は桜井由美を見かけた。


彼女は一人で学校から帰る途中らしく、三階の廊下を鞄をぶら下げて歩き、階段の方へ向かっていた。


私は、桜井由美にも不幸せを教えてやりたかった。


どんなに努力してみても変えられない運命があることを彼女に教えてやりたかった。


あなたは、毎日、塾に通い、ピアノの稽古をして、家族と旅行に行くのが普通の暮らしだと思っているのだろうけど、それは違うと、彼女の傲慢な考えを私は否定してやりたかった。