外から窓を叩いているのは、宙に浮いた血まみれの右腕だった。
肘から切断されているその右腕は、割れんばかりに窓を叩き、窓を血で赤く染めていた。
私は恐しくて、フラフラとした足取りで立ち上がり、窓に背を向け、リビングから外に逃げようと、ドアの方へと歩き出した。
野沢恵子の悪霊は、私のすぐ後ろに迫っている。
焦った私は、足を絡ませ、その場に倒れ込んだ。
私の膝からは、血がにじみ出たが、私には膝を気にしている余裕はなかった。
そしてそのとき、家の電話が、けたたましく鳴り、私は倒れたままの姿勢で振り向いた。
私の目は、無意識のうちに家の電話より先に、窓の方に向けられた。
でも、もうそこには、血まみれの右腕はなかった。
それどころか、真っ赤に染まっていたはずの窓には、血痕一つ残っていなかった。