私はその日、スーパーに買い物に出掛けたとき、いつもは立ち寄らないお酒コーナーに来ていた。


武士は家で、お酒を飲まない。


私も、付き合いの席でしかお酒を飲まない。


でも私は、お酒がたくさん並んでいるこの場所にいて、いつもは飲むことのないお酒を飲んでみたいと思った。


もしも私がお酒を飲んだなら、今の私の体のだるさも、どうしようもない無気力さも、暗く沈んだ私の心も、いくらか良くなってくれるような気がして、私はその場に立ち尽くした。


〈 一本だけならば…… 〉


私は、棚に並ぶ冷たそうなビールをぼんやりと見つめていた。


〈 一本だけならば、すぐに酔いも醒めるわ 〉


私は、そう自分に言い聞かせて、手に取ったビールを買い物カゴに入れた。


それは、私の毎日の生活が少しずつ変わっていくきっかけだった。