夫の武士が仕事を終えて帰ってくると、私の気持ちは、少し軽くなり、いつも心に抱えている不安が一瞬でも消えてなくなるような気がした。


中学生の頃からずっと好きで、やっと結ばれることができた武士が、私の近くにいること、それが今の私の一番の幸せだった。


私は、百合子が寝静まった夜のリビングで、ソファーに座り、武士と向き合った。


「小夜子、百合子は今日も部屋から出て来ないのか?」


武士は、浮かない顔で私に話しかけた。


「ええ、百合子は今日も、部屋にこもりっきりで……。

このままじゃいけないって思って、私は何度も百合子の部屋に行って、百合子に話しかけたけど、百合子は怯えているばかりで、私の話を聞いてはくれなくて……」


「でも、どうして百合子は、こんな風になってしまったんだ。

百合子は、明るくて、かわいらしくて、誰からも愛される女の子だったのに……」


武士は、そう言って下を向いた。


私は、武士の気持ちを考えると胸が苦しかった。